2014年04月16日

ピンチョン版:フォーエバー・ヤング

本日のピンチョン@

(今日の元気を『重力の虹』からいただこう)


魔女っこゲリーが、恋するチチャーリンを憎しみによる決闘から守りたくて、でも自分の魔術が未熟なので、年寄りの魔女に相談します。年寄りの魔女がこたえます。


“But you are in love. Technique is just a substitute for when you get older.”

「でもあんたは恋をしてるだろ。「うで」なんてものは、年をとったもんが使う代用品さ」

“Why not stay in love always?”

「いつまでも恋していればいいのに」

     (Gravity’s Rainbow, p. 717 of the original 760 page-long version)



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2014年04月13日

進行状況

『重力の虹』の出版予定ですが、昨年11月に全巻入稿、校閲を経た初稿返しわずかな残りと、註の完成バージョンが今週お返しできるので−−まだ編集サイドの作業量は非常に多いですし、とにかくハードルの高い作品ですし「解説」も相当がんばらないといけないのですが−−学生さんが夏休みに入るころまでには、おっ!と驚く装幀で書店さんに並んでいるだろうと、想像しています。出版社に代わって、私が「想像」以上のことを言うことができないのはご了承ください。訳者だけでなく、本作りにたずさわるすべての方々にとって、圧倒的に重量のある相手なのでね。

新潮社のブログに「予頁各512頁」とあったのを、いま知りました。ちと軽く見られていたかな。現段階で、上巻738頁、下巻717頁ありまして、下巻には解説と索引がつくので、もっと膨れます。註はどうしても多いので、読みやすいように対応する下の段に入れてもらいました。あくまでも本文の障壁を乗りこえていただくための助けという位置づけですが、全部で12万字、ということは、新書の1冊分は書いてしまいましたか。
英語以外に、地理、歴史、政治、経済、数学、物理、化学、地学、美術、音楽、体育、家庭科、調べ物はすべての教科にわたっています。登場人物の国籍が複雑で、日本語を含む諸外国語も飛び交います。

ロケット工学の歴史に関しては、ピンチョンは、ボーイング社にいたころ(20代半ば)から資料を漁っていたのでしょう。開発の過程を、弾道学、電磁気学、流体力学、電波での制御、さまざまな角度から学んでおかないと、これだけの意気込みで書かれた本書を正しく訳すことはできません。でも、それらは背景であって、〈ロケット〉は文明史的な意味ともに、超越的でオカルト的な意味も担う。物語内では、戦間期ドイツの浪漫主義文芸に心を染めたナチス将校の手で、特別な一機が打ち上げられ、その打ち上げに、生者と死者、神話的なシンボリック・フィギュアが絡んでくる。

探偵小説好きのピンチョンですから、話の筋を隠す癖があるんですよ。いつも背後に陰謀が、または陰謀幻想=パラノイアがある。だから二百ページとか前にさらっと書いてあったりしたことが解釈に響くんです。

しかし訳者の脳内RAMは、それだけの情報を全部詰め込んでおけるほど大きくないわけですよ。校正で読み返すたびに新しいつながりが見えて、そうすると前も後ろも訳し変える、みたいなことの連続でした。

読者への容赦がなかった30歳代のピンチョンですから、ギリシャ神話やドイツ北欧系の神話だけでなく、ユダヤ神秘主義、魔術的世界観、キリスト教神学とその歴史の知識が繰り出されますし、薬学に裏打ちされたドラッグの知識も、ドラッグの視点を文学に引きこむ意気込みも、並大抵ではありません。映画、オペラ、コミック、戯れ歌が濃密なのもいつも通り。一方では微積、確率統計、有機化学史、実験心理学、建築、服飾……、の用語が飛び交います。はい、調べ物、楽しかったです。それももうじきタイムアップじゃ。

校閲担当の方には頭が上がりません。長期間つきっきりでミスを拾い続けていただいている気がしています。索引や地図や図版で、担当の方には、まだまだお世話になります。とにかくピンチョンの一番すごいところを、完全にとはいえなくても、日本語で体験できる訳文になったことは確かかな、と。大変長らくお待たせしました。もう少しでございます!

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