昨日5月24日は、Gravity’s Rainbow の正式な出版日、41年前のこの日に、760ページのハードカバー版が、アメリカの書店に並んびました(実際は、もっと早かったのでしょうけど)。
73年5月というと、僕は東京で、進学したばかりの英文科で、ラルフ・エリソンの Invisible Man を読んでいたかも。
1974年4月の全米図書賞授賞式(@リンカーン・センターのアリス・タリー・ホール)で、受賞者を発表したのはそのエリソンでした。選考委員会は割れたらしく、賞金を折半して、ピンチョンとは対照的な、ユダヤの語り部、アイザック・シンガーとが同時受賞するという決着になったようです。
このビデオの2分27秒から、エリソンの紹介スピーチが始まります。
Ralph Ellison's introduction:
The jury has determined to divide the prize between two writers. To Thomas Pynchon, for GRAVITY'S RAINBOW which bridges the gap between the two cultures and puts the world of manipulation and paranoia within the perspectives of history. To Isaac Bashevis Singer for A CROWN OF FEATHERS and a life-time of distinguished work revealing a skeptical, philosophical and mischievous obses- sion with human and demonic character. I present this not to Mr. Singer, but to Mr. Pynchon.
[訳]審査委員会は、賞を二人の作家に分与する決定を下しました。トマス・ピンチョンの『重力の虹』、ふたつの文化をギャップを埋め、権力の操作とパラノイアの世界を歴史的パースペクティブの中に捉えた功績に対して。それとアイザック・バシェヴィス・シンガーの『羽の冠』――人間的かつ魔物的キャクターへの懐疑的、哲学的そして悪戯心に満ちたオブセッションを展開する、氏の長年の優れた著作に対して。私がプリゼントするのは、シンガー氏でなくピンチョン氏であります。
次、2分59秒から、 “コーリー教授”による代理受賞演説。「However……」で始めるのは、”Foremost Authority” という異名をとるこの芸人の、癖というか、ルーティンであります。ピンチョンをパイソンと間違えているのは、英語だと視覚的に似てるからかな。ソルジェニーツィンも、ソルジニツキーと言い換えていますね。
However...I accept this financial stipulation–ah–stipend in behalf of Richard Python for the great contribution which to quote from some of the missiles which he has contributed... Today we must all be aware that protocol takes precedence over procedure. However you say–WHAT THE–what does this mean...in relation to the tabulation whereby we must once again realize that the great fiction story is now being rehearsed before our very eyes, in the Nixon administration...indicating that only an American writer can receive...the award for fiction, unlike Solzinitski whose fiction does not hold water.
[訳]しかしながら、私はこのファイナンシャル・スティピュレ−ション(財産条項)じゃなくてスタイペンド(支給金)を、リチャード・パイソン氏に代わってお受けします。その偉大な功績は、彼が寄与したミサイルのいくつかを引用すれば・・・今日我々はプロトコル(形式)がプロシージャー(進行)より優先されることに注意を払わなくてはならない。しかしながら、あなたがたは言う、何だ、どういう意味だと・・・図表化に関しては、それによってわれわれは、理解を新たにすべきであるということだ、すなわち偉大なるフィクションが、いままさに、我々の眼前でリハーサルされているのだと。現ニクソン政権においてだ。それが示すのは、アメリカの作家だけが賞を受けられるということ。ソルジニツキーの場合は違って、彼のフィクションは筋が通りません。
スタイルとボキャブラリーは壮大で教授風であって、何か大きな問題に触れそうで、でもズッこける……。それでもちゃんと、ピンチョンが言いたそうなことをメッセージにくるんでいるのは、出演料500ドルを払って、彼にスピーチを依頼したヴァイキング社のギンズバーグ(Guinzburg)という担当編集者の智慧入れでしょうか。
ここから長い省略があって(当日の舞台では、演説の最中に、スッパダカの男が壇上を駆け抜けたんだそうですよ――そうそう、ストリーキングが流行ってた)、ビデオは演説の最後に飛びます。感謝の献辞は、ブレジネフとキッシンジャーと、トルーマン・カポーティでした。キッシンジャーには「大統領役を演じてくれて」という理由つき。
ビデオの最初の方(0:39)で、”コーリー教授 " は『重力の虹』の冒頭を朗読しています。続いて出てくるのは、批評家のジョージ・プリンプトン。この日の式典に参加していました。編集者ギンズバーグのこともよく知っているようです。
『重力の虹』をめぐる伝説。何度も語られた古ネタですが、おおらかな悪戯心が「制度」をオチョくっていた時代を想像するのも、ピンチョンの作品に親しむには、よろしいかもしれません。