2010年11月13日

満天の登場スタア

『重力の虹』に登場するのは、全体で300人を超えるキャストですが、エキストラが演じているようなチョイ役もずいぶん多いので、整理が必要です。

 星にたとえていうと、超新星が一つ:アメリカ軍大尉、マサチューセッツの西部山地出身の──

タイロン・スロースロップ。祖先をたどると、ピンチョンの親戚筋かと思われる、飄々としたヤンキーである。
 その彼が(ペニスの反応を伴う彼の身体的無意識が)ロンドンに降ってくるV2ロケットに特異な反応を示す。どうも子供の時に、魔術師的な化学者で、国際カルテルIGファルベンとの関係も深いラツロー・ヤンフに、自分の存在の奥深くに何かを仕掛けられたらしい。それめぐる謎を追いかけ、ほとんどパラノイアとなり、しかし最終的にはオルフェウスのように、その意識を解いて大地に散らばる──その彼を主人公にした物語が小説の半分近くを占めることになる。

 他にこの小説では、数十ページにわたって主人公の座を占める半ダースほどの「惑星」(謎の動きをとる可変的な男、女)と、けっこう多くの恒星〔執念に固まった、ぎらつく男達)が出てきます。

ヴァイスマン(通称ブリセロ):ナチスの将校。詩人リルケに傾倒し、ドイツの古い民話「ヘンゼルとグレーテル」をベースにしたSMゲームを演じながら、謎のケット00000を打ち上げる。『V.』にも9章「モンダウゲンの物語」に、20年前の若き将校として登場していた。

エンツィアン:ヴァイスマンに愛された南西アフリカヘレロ族の少年(白人とのハーフ)。ドイツに連れてこられて軍人となる。敗戦直後のアナキックな〈ゾーン〉で、ヘレロ族系の仲間を組織し、ロケットの破片を集め、00001号の打上を計画する。

チチェーリン:ロシアの将校。実はエンツィアンを現地の女に孕ませたのは日露戦争に向かう途中で南西アフリカに寄港した彼の父だった。敗戦後のカオスにあるドイツ("the Zone" と呼ばれる)で彼は、諜報員として動いているが、私的には、自分のなかの「黒さ」を象徴する腹違いの弟エンツィアンを葬り去るという必要に憑かれている。

ポインツマン:「降伏促進のための心理学的諜報機構」なる連合国の研究組織で実権を握るイギリス人のパブロフ主義者。ロケットに対するスロースロップの異様な反応がいかなる「条件づけ」の結果なのか、その解明に意欲をもやす。

カッチェ・ボルヘシウス:内面のない、あらゆる男達のために機能する白いオランダ女。「多重スパイ」というのか、オランダのレジスタンスのために動いていたかと思うと、ロケット打ち上げの場で、ナチ将校ヴァイスマンとの「ゲーム」に加わり、かと思うとポインツマンに雇われてスロースロップを誘惑し、ロケット工学の家庭教師のような役も務める。

グレタ・エルトマン:ドイツの・ワーマール時代の映画女優。カッチェが白と光のイメージに包まれているとすれば、こちらは過去とデカダンス、大地や地中と結ばれている。

その他──
☆他人の幻想を掠奪する〃海賊〃、パイレート・プレンティス

☆☆若き統計学者ロジャー・メキシコとその不倫の恋の相手、ジェシカ。恋する二人は、狡猾で老練な〈戦争〉と対比させる、若さとイノセンスそのもの。

☆老准将:第一次大戦の泥と糞の塹壕パッシェンデールの戦いのトラウマをひきずる老役人。役職は上司だが、カッチェとのSMゲームを通して支配してポインツマンに支配されている。

☆IGファルベンのドラッグ売人、神出鬼没のゾイレ・ブマー(訂正2015,2月→ヴィンペ)(ゾイレ・ブマーは☆痛切に愛すべきマリワナ吸いの老悪党でした)

現実の種まきをする映画監督、ゲアハルト・フォン・ゲール:

☆アルゼンチンのアナキスト、エスクワリドーシとその仲間:19世紀アルゼンチンの国民詩『マルティン・フィエロ』の映画づくりをフォン・ゲールと進める。

☆ドウェイン・マーヴィ大佐と部下の下品なアメリカ兵:大酒を飲み、猥歌を歌いながら、Vロケットの資料とスロースロップを追う。

☆うら若き〈ゾーン〉の魔女、ゲリ・トリッピング。これがかわいいの。

☆ヴァイスマンの白き恋人、少年ゴットフリート

まだまだ、いっぱい出てきます。でもきょうはここまで。ちょっと混乱させました。あとでまた。
posted by ys at 15:25| 『重力の虹』翻訳日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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