2011年10月16日

いいもん、ロックは純文学で:『文化系のためのヒップホップ入門』

「いりぐちアルテス」というシリーズを、音楽系出版社のARTES が始めて、第一弾が
音楽用語ものしり事典(久保田慶一著)

「テンポと天ぷらはルーツが同じ」という話の次に何をぶつけてくるのかと思いきや−−

51drgAbu+DL.jpgいりぐちアルテス:002


 帯に書かれている英語版タイトルをみたら
 HIP-HOP for B-Boys だって。その「B」に Bunka-kei という註釈がついている(笑)。

 じゃ、ホントはB-Boy って何の略か、をベタに「いりぐち」の人がたずねても注はない、ってのは別にケチをつけているのではなくて、
 28ページから

ボビー・バード、★インクレディブル・ボンゴ・バンド、★アフリカ・バンバータ、★『湘南暴走族』、★バルバドス、★ビートルズ、★モンキーズ、★ニール・ヤングとスティヴン・スティルス、★グランド・ウィザード・セオドア、★グランドマスター・フラッシュ、★コーク・ラ・ロック、★DJ・ハリウッド、★〈ラヴ・イズ・ザ・メッセージ〉、★グリオ、★サイファー、★ウェイアンズ兄弟、★ラスト・ポエッツ、★ギル・スコット・ヘロンと続いてやっと39ページに出てきた、★ブレイクダンスにも「Bボーイ」の言及はなし。

それでいい。テクストがどうの、じゃない。
この本が用意しているのは、ヒップホップの「いりぐち」という〈場〉なのであって、その〈いりぐち〉が思いのほか豊饒で教育的だという点が通じるから、この本はいい。

 (ワタクシごとのつぶやき):むかし『ロックピープル101』(1995)という本を編んだことがあって、その時、共編者の柴田元幸が今の大和田君と同じ年くらい。その帯に、新書館の熊谷さんかな(違っていたら言ってください)編集部で書いてくれた帯の文句が、「先生、ロックってなんでしたっけ。」だった。ロックの成立が50年代で、ヒップホップがその20年後とするなら、長谷川・大和田世代から「ヒップホップってなんでしたっけ。」に応える総括的教育ブックが出てきていいころではある。ただ、その本は、『ロックピープル』みたいな、作家主義やテクスト志向を採る本にはならないだろう。

 教育的になった理由は、長谷川x大和田 という世代的に近くてアプローチの違う二人を絡ませた点にある、と思いました。
 ひとつの「ヒップホップ主義」を押しだそうとする長谷川町蔵と、それを受けながら、本家アメリカでの知的受容の受け皿を差し出していく大和田との対話は、illuminating つまり、その語源的な意味で「啓蒙的」。特に長谷川は「隠喩の閃光」重ねていく方法によって、彼のヒップホップ理解を伝えてくる。 以下、すべて本書の見出しになっている〃隠喩的ひらめき〃の諸例:

◎ヒップポップは『少年ジャンプ』である
◎ヒップホップはプロレスである
◎ヒップホップは「お笑い」である
◎ロックは純文学、ヒップホップは Twitter.

大和田も隠喩作りには参画しているが、少々性格の違う隠喩を使う。大風呂敷というやつだ。たとえば、
◎黒人音楽は「大縄跳び」だ。(「場」に参加して「跳びたい」と思う人に開かれていて、誰が一番かっこよく跳ぶかを競う)

一方の長谷川の閃きは、隠喩的ではあっても包括的ではなく、峻別的である。冒頭で「ヒップホップはゲームである」という理解を「ヒップホップは音楽ではない」という理解と絡めて差し出す。これはヒップホップ・カルチャーに備わった「ディス」しながら「ディグ」するという理解系に沿った知のスタイルであるといえるだろう。ロックはさあ、ほら、純文学でしょ。ああで、ああで、ああいうところが。その点、ヒップホップは Twitter で−−

 表現する側も、自己表現したいというよりは「セックス」や「ドラッグ」っていう「ハッシュタグ」に対して気の利いたことを言ってフォロワーを増やすことがモチベーションになっているわけです。(P. 239)

 これも一面鋭い指摘だ。たしかに、サトチョンのブログをあり方など見ると、これは Twitter の真逆であり、めちゃくちゃロックで純文学である。
 ところで、ワタクシが思うに(大和田俊之も、その方向に議論を押し戻そうとしているところが読めるけど)、峻別的にディスしていくのでは得られない種類の知というのがあって、この種の融解的メタファーに対して、ロック(60-70年代の)と純文学は共通して親和性が強いように思うんですわ。

 『重力の虹』(1973)を例にとると、あの本は第二次大戦を
◎連合国は枢軸国である
という、全包括的にディスる立場から扱っている。これはロックだと思いますね。しかるに純文学、むむ。

 あとこういう企画やるみたいです。
10/22 ジュンク堂書店新宿店
『文化系のためのヒップホップ入門』刊行記念トークセッション
“ヒップホップと音楽の未来”
長谷川町蔵×大和田俊之×ゲスト・佐々木中
posted by ys at 12:11| Comment(0) | いただいた本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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