
ものを考えることと音楽を演じることとの間に分裂があった時代が長く続いた。両者のギャップが世代や文化の傾向としては閉じてきたことを、この頃とみに感じる。
宮入恭平さんは、ライブハウスでライブをやり、大学院の「コミュニケーション学研究科」に学び、非常勤講師をしながら、2008年に『ライブハウス文化論』という本を出した。その宮入さんから、この秋、この本が届いた。クラブシーンに詳しく肩書きが “ファッショントレンド調査者”という佐藤生実さんと組んでまとめた、日本のライブシーンの諸相である。カバーした領域は広い。
第1章:コンサート 第2章:ライブハウス 第3章:クラブ 第4章:フェス
第5章:ストリート 第6章:インターネット 第7章:アキバ系 第8章:発表会
http://www.seikyusha.co.jp/books/ISBN978-4-7872-7311-6.html
それぞれに一章ずつ振り当てて、数多くの統計図表と共に、現状をまとめて報告している。
そこから浮かび上がってくるのは小さくなりながら元気を保とうとしている日本のポピュラー音楽界の姿だ。小さくなって、必死の営業努力を続けながら、でも見かけは楽しく穏やかに流れていく、このごろの日本の音楽シーン。
かつての反体制だったロックとともに、人生観社会観を組み上げてきたサトチョンなどの目には、小さくセンシティブにまとまりながら、それでも音楽を、僕らの世代以上に生活の核として、やさしく大事に抱えながら生きている21世紀人が、「未来人」として見えてくる。
ところで、この本が形をとっていく初期段階に、僕はたまたま、JASPM(日本ポピュラー音楽学会)の研究活動のまとめ役として、居合わせた。そして京都女子大での全国大会の「ワークショップ」のフロアから、音楽への「愛」や「夢」の話はどうするの? というイタズラぽい質問を投げかけた。
その質問への一応の答えとおぼしきものが、この本の序章と終章で、律儀に書き込まれていることも付け加えておこう。
「パフォーマーとして、僕はライブハウスシーンに違和感を覚える」
「オーディエンスとして、わたしはクラブシーンに違和感を覚える」
著者の二人は、この違和感から出発したという。
だけど、各論になると統計社会学、あるいは音楽産業論の資料的研究の域に収まってしまうきらいがある。
愛することと論じること、歌うこととそのビジネス。むずかしいんですよ、これ、混ぜるのが。
宮入さんは現在、複数の大学で非常勤講師を続けながら、ライブハウスでの活動を続けている。片方で言葉を語り、もう片方でギターを弾き音楽を発している。
http://homepage.mac.com/kyohei_miyairi/
この二つのことが、一つの場で、どのようにクロスオーバーしてくるのか、勝手な期待を馳せていいでしょうかね。なぜならその複合的トポスからこそ、愛も夢も、反骨も諦念も、みんな含んだ一個の人間の《ライブな生き様》が発信されるのだと思うから。
つまり本自体は二の次ってこと。
音楽と思考をインテグレートすること、これは現代の感受性にとって、とても基本的かつチャレンジングな問題なのだと思うのですよ。
はい、以上が感想でした。