2015年04月18日

映画『インヒアレント・ヴァイス』本日4月18日公開


上映館情報


『キネマ旬報』で4月下旬号では、サトチョンのインタビュー記事に5ページ割いていただきました。インタビュワーの五所純子さんが、この映画について、「60年代から70年代にスライドしていくなかで失われたもの、その哀しみを滲ませつつ、それを小さなところで逆転するロマンチックな映像劇」と、卓抜に表現しています。

 私は、ドッグとビッグフットのこじれた友情について、安全ドラッグとしてのマリワナについて、アンダーソンにとってピンチョンへの傾倒は自然なことだということについて語り、これは将来的に名作となる、と予言させていただきました。


もうすぐ発売される『ユリイカ』5月号は、P・T・アンダーソン監督の特集で、柳下毅一郎さんと対談しました。


発言を一カ所だけ、プレビューします。


佐藤 映画のレベルでもうひとつ、小説よりくっきりと光が当たっているのがコーイ・ハーリンゲン(オーウェン・ウィルソン)ですね。ピンチョンは『ヴァインランド』以後、だいぶ人間よりの物語を書くようになりましたが、それでも、人が人を救う話が、コミック風味でなく成就しているというケースはこれが初めてなんじゃないかと。

 話をまとめ直すと、探偵ドックは三つの事件に関わるわけで、まずはシャスタに依頼されたミッキーの失踪事件、これは柳下さんもおっしゃるように手が届かない。二つ目のホープ(ジェナ・マローン)に依頼された、夫コーイは死んだことにされて実は生きてるんじゃないかという事件については、曖昧なところを残さずに解明されます。三つ目が、虐め役のビョルンセン刑事(ビッグフット)から、依頼などされずに降りかかってきた相棒インデリカート刑事の抹殺事件ですが、この三つの事件の犯人は──パラノイアになりきっていえば――みんな同じで、誰とは特定されない〈かれら〉となんです。影で歴史を操る人間たちね。ドックは〈かれら〉の一味の富豪クロッカー・フェンウェイと正々堂々渡り合って、コーイを引き戻し、そしてふたたび妻と子どもと暮らせるように計らう。このメロドラマをアンダーソンは曖昧にせずに描ききりました。ビッグフットの話と、シャスタとの話は、エンディングをちょっと変えてますね。。フリーウェイを走るドックの車のなかにシャスタがいるというのは、ちょっと余計だったかな、なんて僕自身は思いますけどね(笑)。

posted by ys at 08:20| ピンチョン通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする