2015年07月03日

表象文化論学会で、『重力の虹』実写絵巻を披露します。

今週末の表象文化論学会、先にブログに書き込んだ日にちに誤記がありました

日曜日は6日ではなく、5日です。 


あらためて投稿します。


 『重力の虹』のパネルが企画されているので、お知らせします。

7月 日(日)16:30-18:30
早稲田大学戸山キャンパス
32号館1階128教室


*日曜日のため戸山キャンパス正門は閉まっていますが、守衛に声をかけてお入りください。
参加費:非会員の方は1000円で日曜全日「当日会員」になれます。


大会プログラム
http://www.repre.org/conventions/10/



企画パネル:『重力の虹』を読む


            佐藤良明

            門林岳史(関西大学)

            武田将明(東京大学)

            麻生享志(早稲田大学)=ディスカッサント


これまで「アメリカ文学」の研究会では取り上げられてきた作品ですが、新訳が出回って、いよいよ学際的な議論が盛りあがろうとしています。
 パネルには、マクルーハン研究とポストヒューマン論で知られるメディア文化論者・門林岳史さん。および、最近も『ガリバー旅行記・徹底註釈』を上梓された英文学研究の俊英で、文芸批評でも活躍中の武田将明さん。スウィフトの時代とデジタル環境における人間再編の時代、「〈近代〉の始まりと終わりを繋ぐ視座から、人間的限界も踏み越えて、近代の根底にある匿名の欲望と、それに肉薄するテクストのありようを示す」ようなパネルになることでしょう。

 佐藤自身は、今月ドイツで、スロースロップの後追いの旅を敢行。その写真を披露しながら、20世紀最大級のカリスマとしての〈ロケット〉と、それに食らいついた20世紀最大級の小説とのと剛胆なる繋がりについて、お話しします。コメンテーターおよび場内討議の統括者として、ピンチョン研究のベテラン、麻生享志さんにも入っていただきました。

参加はすべての方にオープンです。Everybody welcome to (hot and cool) discussions!


   ロケット製造トンネルのあったノルトハウゼンに到着(『重力の虹』第三部冒頭参照)

IMG_0776.jpg



見えたぞ、ロケット

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2015年04月22日

『インヒアレント・ヴァイス』予習のページ


 わからない映画、にしてしまっては勿体ないので、『インヒアレント・ヴァイス』を観に行く前に、どうぞ、予習をしてください。この映画、筋を事前に知っても「ネタバレ」とはならない、そういう映画ですのでご安心を。

     サトチョン作成の登場人物一覧

     (以前から掲示しているものです。クリックすると拡大します)


●中央の初老男がミッキー・ウルフマン。ユダヤ系の大物デベロッパー。

  このミッキーと、ドッグの元カノ、シャスタが、どういうわけかくっつきました(『競売ナンバー49の叫び』では、同じカリフォルニアの土地開発で巨利を得たピアス・インヴェラリティが、エディパを恋人にしていましたね)。映画の冒頭で、久しぶりのシャスタがいきなりドックのオフィスに現れて、ミッキーの失踪について調べてくれといって去っていきます。

  シャスタのヒッピー思想の影響かどうか、ミッキーはいままでの強欲を悔いて、人は無料で土地に住むのが本来の姿だと悟る(小説では、ネバダの砂漠に大規模な無料の居住施設を建設している)のですが、そんなことを〈かれら〉が許すはずはありません。〈かれら〉とは、アメリカを背後で操る、カネと権力の結託した反動勢力です。

  ミッキーはクリスキロドンという施設に入れられてしまいます。金持ち向けの精神治療施設をよそおった、〈かれら〉による洗脳施設──ちょっとパラノイア的ですね。これぞピンチョンの世界。

  ミッキーの妻スローンは、リッグズ・ウォーブリングという逞しい大男(ミッキーの雇った建築家)を愛人にしている。家にはお色気丸出しのメキシコ系メイド、ルスがいて、探偵ドックに味方します。


シャスタの次に、ドックのもとに依頼にきたのは、タリクという黒人。武装をめざす黒人過激派なのだだけれど、ム所で知りあったネオナチのグレン・チャーロックを捜してくれという依頼だ。グレンは、ミッキーに雇われたボディーガード団の一員。

  “アタマがおかしく” なる前にミッキーがやっていたロス再開発の一環に、黒人居住区の壮大な宅地化の仕事があった。その名も立派な「チャンネル・ヴュー・エスエイツ」。この建設現場で “ペロペロ・スペシャル”の商売をやっていたのが、ジェイドとバンビで、その店に入ったドックは頭に一撃をくらう。気がつくと、同じ一味の仕業だろう、グレン・チャーロックは殺害された後だった。

 ミッキーがヒッピーとくっついちゃうのもありえない話ですけど、ブラックパンサーと白人至上主義者との間に、武器供与の約束が成立するというのもありえない話で、でもそこをくっつけてしまうのがピンチョン。おまけにタリクはグレンの妹クランシーとできちゃいます。この「ありえなさ」、非常識的解放感、がピンチョンの味なんですね。


 ウルフマンの一件ではFBIが動いていて、フラットウィード(つぶれたハッパ)とボーダーライン(境界性人格障害)という名前をもつ二人が、ドックに関心をもちます。ロス市警は腐敗しているものの、この一件で動き出した “ビッグフット” ビョルンセン刑事は、映画中もっとも大胆にヘンなやつで、フローズン・バナナを舐めながら、英文科の教授みたいな言葉づかいでヒッピーを虐め、でも根はいいやつで、演じるジョシュ・ブローリンのド迫力にはきっと圧倒されるでしょう。

  ビッグフットとドックは、水と油の関係であるはずなのに、ピンチョンはここでも、相反するものをリンクさせ、二人の絆が強まっていく方向に話をもっていきます。ビッグフットの相棒が〈かれら〉に抹殺されていて、殺害を手掛けたのが、エイドリアンと彼の手下のパック・ビーバートン。パックはミッキー・ウルフマンに雇われた一人でもある。なぜか洗脳施設にもいて、シャスタのヌードが描かれたネクタイを持っているのだが、詳しい事は重要でない。〈かれら〉に使われる殺し屋、という理解で十分だ。

  〈かれら〉──大文字の They──とは『重力の虹』に出てくる表記をサトチョンが勝手に借用しているものですが、こちらの話で、邪悪な影の支配者は「ゴールデン・ファング」というシンボルによって括られています。ピンチョンの小説では、実体を曖昧にしたまま、シンボルだけが浮遊するということがよくあるんです。『競売……』の「トリステロ」もそうでした。『V.』におけるV.(歴史を操る女)は、まさにそれ。


Golden Fang(金の牙) は、具体的に、3つの現れ方をします。

 @船。美しいスクーナー帆船です。ミッキーとシャスタはこれに乗って、遠くへ連れて行かれた。この船は〈かれら〉による、ベトナム地域からのヘロインの輸送にも使われています。ヘロインの事業をマネージしている一人が、図の右上の、クロッカー・フェンウェイ。(その娘のジャポニカは家出の常習犯で、過去にドックは、フェンウェイからの依頼で彼女を連れ戻したことがある。)

 A歯科医師の団体が税金逃れのために起ち上げたとされるオフィス。ドックとシャスタのシックスティーズの想い出の場所は、この時代、Golden Fang の建物──すごいですよ、金の牙の形をした巨大なビル──に変わってしまいました。その中ではコカイン狂いの歯科医ブラッドノイドが、女の尻を追っている。ヘロイン中毒患者は歯がボロボロになるので、歯医者のお得意さん──ということで、歯科医とヘロイン密輸は、Golden Fang のシンボルでつながる。

 B後から分かるのですが、洗脳施設クリスキロドンは、ギリシャ語で「金の牙」の意味なのだそうです。


それぞれ別個と見えるものが、同じ記号でひとつになる。背後に、共通のエージェントが見えてくる。それってパラノイアですけど、ピンチョンの小説は、読者をその状態に誘いこむのです。

  パラノイアに走ってしまいましょうか? こう考えるとスッキリしますよ──

 アメリカという国は暴力的なカネの力で動いている。クロッカー・フェンウェイのような、裕福な土地持ちが、ニクソンのような政治家の後ろ盾となる一方、陰でいろいろ企んでいる。東南アジアからのヘロインは、人民をコントロールするためにも使われている。ヘロイン中毒のミュージシャンを標的に、彼が過剰摂取で死んだと見せかけ、マインドコントロールして密告者や、擬装騒乱者として使う。そうして反体制のヒッピーや活動家をつぶしていく──。(なにか、パラノイアというには、あまりに現実味がありすぎますかね。この映画には、ニクソン本人もでてきます。その演説を、〈かれら〉に操られるコーイが「やらせ」で妨害します。)

 チャーリー・マンソンの事件を〈かれら〉が仕掛けたのではないにしても、60年代の希望を吹き消すようなことがこの時代、次々起こっていたことは知っておいていいと思います。『ヴァインランド』でも、連邦のカネが巻かれて、ヒッピーが密告者にされるようすが描かれました。

 そんな暗い時代に、ひとすじの光を呼び込む存在が、ホアキン・フェニックス演じるドックなんですわ。

 ドックが、一度壊れたコーイ・ハーリンゲンの家庭を修復する物語が、映画では小説以上にきわだっています。感動的。演じ手はオーウェン・ウィルソンとジェナ・マローン。かわいい幼女も出てきますよ。

 そして映画では、相棒を失ったビッグフットとの奇妙な連携プレーによる逆襲(パックとエイドリアンへの復讐)も、見事なアクション・シーンとして描かれています。


●図の左下には、ドックの仲間が並んでいます。

 不動産屋のリート伯母さん。(ドックの父母は小説には出てきますが、映画からはカット)

 ベニチオ・デル・トロ演じる、オタク弁護士ソンチョ。彼は安カフェで「連邦政府=FBIが、マフィアの手からラスヴェガスを部分的に奪還するためミッキーを必要とし、彼を誘拐した」ことを伝えます。

デニス(実は「ディーニス」というのですが、これは penis ──英語だと「ピーニス」──と韻を踏むところが重要で、そのおばかな味は、日本語では出せない)。このヒッピーのダメ男は、小説だと、もっとおかしいです。

 Dr. チューブサイドとその受け付けのペチュニア(監督のパートナー、マーヤ・ルドルフが演じている)、そしてドックのヒッピー仲間のうち、占星術にもウィージャ盤にも詳しく、精神的に頼りになるソルティレージュ(ミュージシャンのジョアナ・ニューサム)が語り手をつとめています。このアンダーソンのアイディアは成功しているといえるでしょう。



なおこの人物図には間違いが2つありました。

・中央トップのピザの晩餐会のようなシーンに「クリスキロドン」と書いてしまいましたが、ここはトパンガ・キャニオンにある、成功したサーフバンド「ザ・ボーズ」の屋敷です。

・ヒッピーをセックス・パートナーとしている、ペニー・キンボル(リース・ウエザースプーン)は地方検事補ですから所属は「検察局」でした。失礼をば。


posted by ys at 07:00| ピンチョン通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年04月18日

「インヒアレント・ヴァイス」/「LAヴァイス」で、お呼ばれ

5月6日に、下北沢のB&Bで、佐々木敦さんとトークイヴェントのお知らせ。

それと、
5月17日、猫町倶楽部主催の、東京文学サロンと 東京シネマテーブルのコラボイベントに招かれ、お話しすることになりました。

よろしければお出かけください。サトチョンより。

posted by ys at 09:56| ピンチョン通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

映画『インヒアレント・ヴァイス』本日4月18日公開


上映館情報


『キネマ旬報』で4月下旬号では、サトチョンのインタビュー記事に5ページ割いていただきました。インタビュワーの五所純子さんが、この映画について、「60年代から70年代にスライドしていくなかで失われたもの、その哀しみを滲ませつつ、それを小さなところで逆転するロマンチックな映像劇」と、卓抜に表現しています。

 私は、ドッグとビッグフットのこじれた友情について、安全ドラッグとしてのマリワナについて、アンダーソンにとってピンチョンへの傾倒は自然なことだということについて語り、これは将来的に名作となる、と予言させていただきました。


もうすぐ発売される『ユリイカ』5月号は、P・T・アンダーソン監督の特集で、柳下毅一郎さんと対談しました。


発言を一カ所だけ、プレビューします。


佐藤 映画のレベルでもうひとつ、小説よりくっきりと光が当たっているのがコーイ・ハーリンゲン(オーウェン・ウィルソン)ですね。ピンチョンは『ヴァインランド』以後、だいぶ人間よりの物語を書くようになりましたが、それでも、人が人を救う話が、コミック風味でなく成就しているというケースはこれが初めてなんじゃないかと。

 話をまとめ直すと、探偵ドックは三つの事件に関わるわけで、まずはシャスタに依頼されたミッキーの失踪事件、これは柳下さんもおっしゃるように手が届かない。二つ目のホープ(ジェナ・マローン)に依頼された、夫コーイは死んだことにされて実は生きてるんじゃないかという事件については、曖昧なところを残さずに解明されます。三つ目が、虐め役のビョルンセン刑事(ビッグフット)から、依頼などされずに降りかかってきた相棒インデリカート刑事の抹殺事件ですが、この三つの事件の犯人は──パラノイアになりきっていえば――みんな同じで、誰とは特定されない〈かれら〉となんです。影で歴史を操る人間たちね。ドックは〈かれら〉の一味の富豪クロッカー・フェンウェイと正々堂々渡り合って、コーイを引き戻し、そしてふたたび妻と子どもと暮らせるように計らう。このメロドラマをアンダーソンは曖昧にせずに描ききりました。ビッグフットの話と、シャスタとの話は、エンディングをちょっと変えてますね。。フリーウェイを走るドックの車のなかにシャスタがいるというのは、ちょっと余計だったかな、なんて僕自身は思いますけどね(笑)。

posted by ys at 08:20| ピンチョン通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月07日

『LAヴァイス』は4月18日公開。

『LAヴァイス』の日本公開の日取りが決定しました。

邦題が、変更になりました。
原題カナ表記で『インヒアレント・ヴァイス』です。


中央の、名なし中年男が、ミッキー・ウルフマンです。
面白そうでしょ。
『キネマ旬報』にも、いずれ紹介記事を書かせてもらいます。

Inherent Vice 登場人物 pict.jpg

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2015年01月12日

Inherent Vice 全米公開中

(ここにリンクした図は新しい記事に直接貼り付けて直しました)


映画を観る前に――Inherent Vice のあらすじを知っておこう。


ビーチ沿いにある私立探偵ドック[Joaquin Phoenix]の家に、昔の彼女でハリウッド女優修業中の美女のシャスタ[Katherine Waterston]が現れ、今の彼氏(不動産業の大物ミッキー・ウルフマン)が失踪した事件を調べてくれと依頼がある。不動産屋をしている叔母のリートに電話したドックは、ウルフマンがどれだけヤバイ人物かを知る。最新のプロジェクトが、低所得者層居住区での郊外型住宅地〈チャンネル・ヴュー・エステイツ〉の開発だとか。テレビをつけると、ロス市警ビョルンセン警部補[Josh Brolin]がヒッピーの恰好をして〈チェンネル・ヴュー〉の宣伝をしていた。この刑事とドックとは腐れ縁──永年いびられてきた。

 翌朝ドックは自分の事務所(LSD探偵社)に行くと、タリク・カーリル[chael Kenneth Williams]という黒人過激派の男が待っていた。ム所仲間で白人極右集団〈アーリンアン・ブラザーフッド〉に所属するグレン・チャーロックの居所をつきとめてくれ、という依頼。ウルフマン身辺警備は、この極右のギャングが当たっている。(原作第1章)


 〈チェンネル・ヴュー〉の建設地に向かうドック。隣りにある〈チック・プラネッツ〉のマッサージ嬢でアジア系のジェイド[Hong Chau]と金髪白人のバンビ[Shannon Collis]と話した後、オートバイの轟音が聞こえて、ドックはいきなり何者かに殴られ失神した。気がつくとロス市警のビッグフット<rョルンセンがいる。ここで殺人事件があった。袋に入った死体はグレン・チャーロック。殺しの嫌疑をかけれらたドックは、市警の建物から友人のオタク弁護士ソンチョ[Benicio Del Toro]への電話を許される。ビョルンセンはドックから捜査のネタを仕入れられると踏んで彼を釈放する。

 ドックの事務所に若い女から電話がある。会いにいくとホープ・ハーリンゲン[Jena Malone]というカリフォルニア・ブロンドの女性で、サクソフォン吹きで、ザ・ボーズのメンバーだった夫のコーイについて調べてくれとの依頼。ヘロイン禍で死んだことになっているが、どうも死んだとは思えないという。(第2章)


変装したドックがウルフマン邸を訪問。妻のスローン[Serena Scott Thomas]と不倫相手の筋肉もりもりの金髪男リッグズ[Andrew Simpson]と話す。ミッキーのベッドルームのクローゼットを探る地、そこには自分の女たちの裸体を描き込んだネクタイが多数吊してあった。女中のルス[Yvette Yates]に送られて外に出ると、ビョルンセン刑事もやってきていた。(第5章)

 ドックがいま付きあっている女性が地方検事補のペニー・キンボル[Reese Witherspoon]。ランチに誘われ、オフィスまで送っていくとFBI捜査官のふたりが待っていた。ユダヤ人不動産業者ミッキーの失踪、黒人過激派と取り引きのあったグレンの抹殺、ヘロイン中毒者コーイの神隠しという一連の事件には、どうやらニクソン政権下の連邦の手も伸びているらしい。(第6章)

 ビーチを歩く──以前にドックの事務所で働いてくれたヒッピー女のソルティレージュ[oanna Newsom]と、謎の大波やレムリア大陸浮上説について話ながら。このソルディレージュが映画では、ナレーター役として最初に登場し、映画の筋を説明する。(第7章)


司法省の船で調査してきたソンチョがドックの家にやってきて言うには、高級スクーナー船〈黄金の牙〉号が浮かんでいた海域から引き揚げられた陸軍のコンテナから、大量のドル札が発見された。それは「ニクソン」の顔が刷られた、北爆と同時にベトナムで捲かれたという代物である。夕刻、ペニーの家でドックがテレビを見ていると、右翼の団体である〈カリフォルニアの光る目〉の大会がニクソンが挨拶をして、それを口汚く野次るヒッピーの姿が大写しになる。ペニーはその男を検察への情報提供者チャッキー≠ニして認識するが、それはまさしく死んだはずのコーイ・ハーリゲンだった。当局はメディアとつるんで、ヒッピーの評判を貶める目的でコーイを利用していたのか。(第8章)

 因みに、数ヶ月前のシャロン・テート惨殺事件では、チャーリー・マンソンとビーチボーイズのメンバーに接近していたことが知られている。コーイもザ・ボーズのメンバー。ドックは、彼らの住む屋敷へ向かう。そこで鉢合わせしたジェイドに聞いてみると、案の状コーイがいて、サックスの練習をしたいた。(第9章) 

 サンセットでプレイしているのいるコーイ[Owen Wilson]を見つけたドックは話し込んで真相を聞き出す。(第10章)


〈黄金の牙〉は船の名でもあるが、歯科医ブラットノイド[Martin Short]が、アジア系のザンドラ[Elaine Tan]を受付嬢にして営んでいる診療所の名でもある。ドックが訪ねていくと、昔家出事件を担当した富豪令嬢のジャポニカ[Sasha Pieterse]がやってくる。彼女はドクター・ブラットノイドが激しく熱を上げたお相手だったが、精神はかなり失調状態で、両親のきまぐれから〈クリスキロドン〉(ギリシャ語で「金の牙」の意)というニューエイジ風の施設に入れられた経歴を持つ(第11章)。ドックはその施設へ向かう。そこにはコーイ・ハーリンゲンがいた。看守のひとりは、ここに収容されたミッキー・ウルフマンからもらったのだろう、シャスタのヌードを描いたネクタイをいじっていた(第12章) 


 以上が『LAヴァイス』の、映画前半部の大筋です。予告編でフィーチャーされているビッグフット≠フ日本料理店でのコミックな発声、「チョットォ、ケニチロー、ドウゾォ、モットォ、パンケークゥ」は小説の13章。もう一人の美女トリリウムの相談を受けて、ドックがラスヴェガスを動き回るシーン(13-14章)はゴッソリと映画から除外されています。コーイにヘロインを渡していたエル・ドラノ(彼も)と関係したらしいパック・ビーバートン[Keith Jardine]、その雇い主で暴力的な借金取立業者のエイドリアン・プロシア[Peter McRobbie]の事務所とドックがやりあう活劇シーンは、ちゃんと見ることができます。

 小説中、グレンとブラットノイドとエル・ドラノの少なくとも三人が殺され、ミッキーとコーイが二人が失踪するわけですが、探偵小説仕立てであるものの、事件は解決を見ません。60年代のカウンターカルチャーの華麗な混沌が収束していく影で、誰が、どんな組織が、どんな糸を引いていたのか、アメリカに深く埋め込まれた 〈Inherent Vice〉の闇を明確に捉えることは、誰にもできません。


 そんな映画ですから、準備なしに見に行っても筋がわからず翻弄されてしまうかもしれない。この映画の見所はピンチョン的な「ギャハハ感」をPTA監督が律儀に映像化したという点にあります。シチュエーションの妙、会話のおかしさ。それを味わうには、ゆっくり小説を読まれてから出かけた方がよいと思います。その時間はないよという人のために、この要約をアップしました。



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2014年12月10日

『重力の虹』主な人物と組織のつながり

先月29日の、ABC本店でのトークイベントでお配りした「『重力の虹』配線図」、
以下のページにアップロードされています。
もともとA3用紙2枚を貼り合わせて描いたもので、A4のプリンタでは50パーセント縮尺になり、文字判別が苦しいかもしれません。パソコン画面で拡大すると、私のような老眼でも、きれいに読めます。
 左上が第一部(White Vistation での研究調査の話が中心)、左下が第二部(モナコのカジノに送られたスロースロップへの実験調査が続く)、そこを逃れて、ドイツの〈ゾーン〉を流れゆくスロースロップと、関係する群像の関わりを示すのが、右下から右上です。
 第四部は、それまでの出来事をランダマイズするようなところがあるので、描き込むとメチャクチャになります。止めておきました。


posted by ys at 22:34| ピンチョン通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年12月06日

「『重力の虹』配線図」、近日ダウンロード


 1129日、青山ブックセンターで行いましたトークイベント「『重力の虹』の(楽しい)苦しみ方」で配布しました「『重力の虹』配線図」(A3ノビサイズ)は、近日中に新潮社側でネット公開すると連絡いただきました。

 また、当日のお話し内容は、1月初旬に発売される文芸誌「新潮」に掲載の予定です。その誌面で配線図──登場人物と組織の相互関連を示すもの──の「改良版」も掲載されるとのことです。(小さくなりますが十分読めると聞きました)

 なお、この「配線図」は「第三部まで」とお断りしています。というのも、第四部は、それまで整理されていたた関係を崩したり混線したりしながら進んでいくので、そこで進展する新しい繋がりはとりあえず排除した方がいいと思った次第。

 当日『重力の虹』の攻略法として、第二部から読んでもいいのではないかと申し上げたことに関して付記します。

 この小説は「線」ではなく多数の線が織りなす「面」としてあるので、ご自分の頭のなかに理解の「陣地」を拡げるつもりで読まれる方が実りが多いかもしれず、入門者は、筋が動き出す第二部(春)から始めると、入りやすい。そこから始めて、カラフルなファンタジーがぐんぐん拡がる第三部(夏)のスロースロップ章を読み進んでいくと、最初から楽しく引き込まれていくだろう、と。その後で、別方向をさぐっていく。点在するポインツマンとホワイト・ヴィジテーションの話、ブリツェロ、チチェーリン、エンツィアン、ペクラーの話と、相互の絡みに意識を拡げていく。

 全体を一望するような理解は、結局得られないと思います。その意味で「配線図」は、最終的な「図解」ではなく、とりあえずの手掛かりにしかなりません。

 スロースロップのエピソードが読者を惹きつける気持ちよさは、語りのどんな原理に依っているのか。──ルイス・キャロルのアリスの話と比較しながら、いま考えをまとめているところです。


posted by ys at 05:53| ピンチョン通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月19日

『LAヴァイス』Inherent Vice の映画を見てきました。

もう一ヶ月以上も前のことですが、ニューヨーク・フィルム・フェスで先行上映されたポール・トマス・アンダースン監督の新作『Inherent Vice』を見てきました。ピンチョンの小説の初の映画化で、二週間の会期の真ん中、土曜の晩にフィーチャーされる「センター・ピース」の扱いでした。豪華キャスト、巨悪を背景にしたズッコケ・ミステリーとして、ノスタルジーとおふざけ、おかしな会話の連続……その高感度なコメディ感覚は、アカデミー賞にもいくつか絡んでくるのだろうと思われます。

inherent-vice-poster-quad.png


見て驚いたのは、PTA監督が、原作に可能な限り忠実なフィルムづくりをしたというところ(映画的効果のために、原作の一部だけを取りだして膨らませる作品もありますからね)。それだけに、出演者多数、話はピョンピョン飛んで、やはり原作を読んでいかないと、何の話かはわからんでしょうね。


オフィシャル・トレーラー

http://www.youtube.com/watch?v=wZfs22E7JmI


この予告編、やや詳細に解説してみましょう。


0:00●ロスのサウス・ビーチの風景。ここの坂にある小ぶりの貸家の二階にドックは住んでいるという設定。(60年代末にピンチョンが住んで『重力の虹』を書いていた家と、描写がピタリ一致します。)

0:05●ドック・スポーテッロのところに、昔の恋人シャスタが訪れた。[訳本『LAヴァイス』p. 10-11

0:11●不動産業界の実力者ミッキー・ウルフマンの勢力拡大を伝える新聞記事/ミッキーの妻スローンと、その愛人リッグズ[p.88あたり]

0:16●ドックがミッキーの最新の開発地チャンネル・ヴュー・エステイツに行って、ウルフマンのボディガードをしているバイカーたちと出会う。[p. 35]/シャスタ ‘I need your help, Doc.”p.10


〈そこまでのナレーション〉

「ビーチの静かな夜に、どこからともなく昔の彼女が現れて、今付きあってる宅地デベロッパーの彼氏と、その妻、妻の愛人の話、そして彼氏を誘拐して精神病院へ入れてしまう策謀のことを話しだしたとしたら、そんな依頼は受けないほうがいいわよねぇ、フツー」


0:24●ダウンタウンのロス市警にて

0:30●因縁のビッグフット刑事から ‘Michael Z. Wolfmann”の名を告げられ、ドックが頼るオタク系弁護士ソンチョも “Micky Wolfmann”の名を口にし[p. 43-46あたり]、お化粧中のリートおばさん(ドックの実の叔母、不動産屋[p.19-20])からは、「あの人正式にはユダヤ人だけど、ナチになりたがっている」とのコメント。そしてマッサージ嬢のジェイドが「あの人たちと関係することはないわ」と警告。

0:45●ヘロインで死んだはずのサックス吹きのコーイの妻が、彼の移ったポラロイド写真の束をドックに渡すシーン。[p. 64リート叔母さん「まあ、彼よりはナチの方が扱いやすかもしれないね」/

ドックが今付きあっている地方検事補のペニー。FBIから調査に来た二人もいる[102-]/

0:59ある店でプレイしていたコーイ[p. 221]/エイドリアン・プロシア “Wrong answer.” p. 433]/ミッキーのネクタイ専用クローゼットでルスに言い寄られる変装中のドック[p. 91]/歯科医のブラットノイドとザンドラ[p. 233あたり]/ソンチョと/シャスタ/スローンの肢体とルスのお尻[p. 87]/更生施設「クリスキロドン」での幻想的な晩餐風景

1:08●ビッグフットがリトル・トーキョーの食堂で、 “Chotto Ken-ichiro, motto pan-keiku, motto pan-keiku, hai, hai, hai.”

1:26ドックがエイドリアンをやっつける。[p. 446]

1:40 挿入歌サム・クックの「ワンダフル・ワールド」(1960

1:42エイドリアンの建物の地下、ビッグフット登場[p. 447]/最初のシーンのシャスタ[p. 10]/最初に逮捕されたドック/死体のスラップスティック/ブラットノイドのおふざけ/運び込まれた死体(この袋の中でピンチョンが「カメオ出演」した、との噂あり)/ドックのオフィスに依頼にきたタリク[p.28]/マッサージ・パーラーで殴られたドック[p. 37


最後のナレーション:Coming just in time for Christmas. 全米公開は1212日です。

日本の公開は決まっていませんが、間違いなく来るでしょう。この機に乗じて、『LAヴァイス』文庫化させたい。こんなにもクラクラさせてくれる小説家に、特別なオーラは必要ない。「全小説」シリーズの定価、やっぱ高すぎますぜ。

posted by ys at 10:57| ピンチョン通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月03日

新潮社PR誌の記事です。

おかげさまで、『重力の虹』、二刷に行くそうです。
高い本を買っていただいた方には、真に感謝。
これで「時給」300円かなと思っていたのが、400円に上がります(笑)

担当編集者のKさんが、アゲアゲで書いてくれた帯(上下裏表4面)も功を奏したのでしょうか。
そういえば、新潮社の「波」に載ったインタビューも、Kさんがうまく編集してくれました。



posted by ys at 10:13| ピンチョン通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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