2010年08月24日

GR250 タマラー・タマラー


『重力の虹』(ペンギン版250ページ)
 スロースロップは、闇のマーケットで大活躍のコワモテの大男 Waxwing と知り合うのだが、その彼から聞かされた話──

・Tamara という女のところにアヘンが届くことになっている
・それをカタに Tamara は Italo という男から借金をした。
・Italo は、Waxwing からシャーマン戦車を一台あずかっている。
・Italoの友達に Theophile というのがいて、こいつがその戦車をパレスチナへ売り込もうとしているのだが、国境を越えるのに、巨額の賄賂が必要となる。
・Theophileは、戦車をカタにして、Tamara が Italo から借りた金の融資を受けようとした。

ところが──
・どうも仲買人が手付け金をもってトンヅラしてしまったらしく、Tamara のもとにアヘンが入ってこない。
・そもそもそのアヘンを買う金は、Waxwing が Raoul de la Perlimpinpin (火薬産業の大企業ドゥ・ラ・ペルランパンパン家の跡目)に頼んで用立ててもらったものだった。
・ところが Italo がすでに戦車は Tamara のものと早合点し、Raoul の屋敷から戦車に乗り込んでいってしまった。(イタロはアヘンが入ってこなくなれば、タマラに貸した金がパーになるから、戦車はオレのものと短絡的に考えたのだ。)
・それでは困る Raoul が Waxwing に渡した金の返金を要求した。

さてこまった Waxwing 、スロースロップのところにきて、手にした分厚い封筒を渡していわく──「こいつをしばらくあずかってくれ。この調子じゃ、Italo の方が Tamara より先に来ちまいそうだ」というのが、このページの大意。

 ここでスロースロップ、何と言って反応したか。

"At this rate, Tamara's gonna get here before tonight."

「その調子じゃ、タマラのほうが、今夜より早く来てしまう」・・・なんだいそれは?
 おおっと、そうか。Tamara って、アメリカ人の早口の Tomorrow と同じ音であったか。それが読み落とされないよう、ピンチョン先生、「スロースロップはグルーチョ・マルクスのようにグルリ目玉を回して言った」と加えている。
 錯綜するプロット、ほころびていく論理、その間をついて炸裂するダジャレ爆弾。ブラック・マーケットに関わる部分はピンチョンの文章に、とくに激しいスピードがある。そのスピード感を失わないリーディングを、トホホ、みなさんに提供したくているんです・・・
posted by ys at 15:58| 『重力の虹』翻訳日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

GR232 ネズミのダンス

1930年代のアメリカのミュージカル。Busby Berkeley 監督の作品をはじめ、女性のおみ脚が幾何学模様をつくるような作品がたくさんあった。

『重力の虹』(ペンギン版 232ページ)では、そんなミュージカルを実験室のネズミたちが演じる。

しっぽを巻いて、伸ばして、菊の花や日輪のパターンを描き、最後は全体がひとつの巨大なハツカネズミ形に収まるという振り付けで。ピンチョンの書いたうたの詞がまた冴えている。

パヴロフランド(ビギン歌謡)
 
 パヴロフランドは春だった        
 おれは迷路をいったりきたり     
 おまえを探して回ってた     
 消毒スプレイ、そよぐなか     
 袋小路の壁の前で   
 おまえも困惑顔だった     
 うう、鼻と鼻を寄せ合って
 学習したのさ、ハートの飛翔を(……)     

このネズミたちはパブロフ派心理学者の実験用である。「数ミリボルトの悲しみが/骨とニューロンに流れてく」というラインもある。この研究室を仕切る男がポインツマン。V2ロケットに対して異常性反応を示す主人公スロースロップの心のメカニズムを解明してノーベル賞をとるんだと意気込んでいる。
posted by ys at 14:59| 『重力の虹』翻訳日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月23日

GR61 ピンチョンの言葉遊び

『重力の虹』の数々の言葉遊びの中から、大がかりなものをひとつ紹介しよう。(Penguin版 61ページ)

【問】次の6つの単語を、順番を変えず、読み方や句読点を違えるだけで、6つの別な意味の文にせよ。
You never did the Kenosha Kid

【答】
(1)You never did. The Kenosha Kid. と切れば、ケノーシャ・キッドが署名入りで「あなたはやってません」と言ったことになる。

(2)do the . . . は「〜のリズムを踊る」という意味があるから、「ぼくはツイストもロコモーションも踊ったよ」という若者に対して、"You never did the Keshosha, Kid." というと、「お若いの、ケノーシャは踊ってないだろう」という意味になる。

(3)省略。

(4) アルファベット・ゲーム。ケノーシャ・キッドは可能なすべての単語を綴りましたが、the をやるのを忘れて、こう言われました。──You never did "the," Kenosha Kid.

(5)フィラデルフィアをひやかし、ロチェスターをボロクソに言い、ジョリエットを笑いのめしたあんたにしても、ザ・ケノーシャをからかうことまでしてないでしょう。──You never did the Kenosha kid. (You never kid the Kenosha. の強意文)

(6) (昇天と犠牲を記念する、国をあげての祭りの日。脂が焦げ、血が滴りおち、塩気のある肉が褐色に焦げる・・・)シャーロッツヴィルの子豚はやったな。よし。フォーレストヒルズの子馬は? これもよし(しだいに小さく・・・)ラレードの子羊、オーケー。おいおい、待てよ。なんだこれは、スロースロップ、ケノーシャの子ヤギをやっとらんじゃないか。──You never did the Kenosha kid.

これ以外に、ピンチョンはもっと作っています。『重力の虹』新訳、いずれ出ます。おたのしみに。
posted by ys at 12:21| 『重力の虹』翻訳日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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