『重力の虹』(ペンギン版250ページ)
スロースロップは、闇のマーケットで大活躍のコワモテの大男 Waxwing と知り合うのだが、その彼から聞かされた話──
・Tamara という女のところにアヘンが届くことになっている
・それをカタに Tamara は Italo という男から借金をした。
・Italo は、Waxwing からシャーマン戦車を一台あずかっている。
・Italoの友達に Theophile というのがいて、こいつがその戦車をパレスチナへ売り込もうとしているのだが、国境を越えるのに、巨額の賄賂が必要となる。
・Theophileは、戦車をカタにして、Tamara が Italo から借りた金の融資を受けようとした。
ところが──
・どうも仲買人が手付け金をもってトンヅラしてしまったらしく、Tamara のもとにアヘンが入ってこない。
・そもそもそのアヘンを買う金は、Waxwing が Raoul de la Perlimpinpin (火薬産業の大企業ドゥ・ラ・ペルランパンパン家の跡目)に頼んで用立ててもらったものだった。
・ところが Italo がすでに戦車は Tamara のものと早合点し、Raoul の屋敷から戦車に乗り込んでいってしまった。(イタロはアヘンが入ってこなくなれば、タマラに貸した金がパーになるから、戦車はオレのものと短絡的に考えたのだ。)
・それでは困る Raoul が Waxwing に渡した金の返金を要求した。
さてこまった Waxwing 、スロースロップのところにきて、手にした分厚い封筒を渡していわく──「こいつをしばらくあずかってくれ。この調子じゃ、Italo の方が Tamara より先に来ちまいそうだ」というのが、このページの大意。
ここでスロースロップ、何と言って反応したか。
"At this rate, Tamara's gonna get here before tonight."
「その調子じゃ、タマラのほうが、今夜より早く来てしまう」・・・なんだいそれは?
おおっと、そうか。Tamara って、アメリカ人の早口の Tomorrow と同じ音であったか。それが読み落とされないよう、ピンチョン先生、「スロースロップはグルーチョ・マルクスのようにグルリ目玉を回して言った」と加えている。
錯綜するプロット、ほころびていく論理、その間をついて炸裂するダジャレ爆弾。ブラック・マーケットに関わる部分はピンチョンの文章に、とくに激しいスピードがある。そのスピード感を失わないリーディングを、トホホ、みなさんに提供したくているんです・・・