日本人の英語教育をなんとかしようと思って、それなりに取り組んできたサトチョンの教師人生、結果としては負け続けていますが、今年もあきらめません。みなさん、たたかいましょう。
闘う相手は「考え方」です。むずかしくいうと「思考の前提」。
たとえば、《英語を日本語で教えるから、へんな規則ばかり流通して、ちっとも練習にならない。英語は英語で教えるべきだ》という思い込み。これはひどい。〈英語が十分できない人〉が、その不十分な理解を日本語で説明しようとするからうまくないわけです。同じ〈英語が十分できない人〉が、彼/女の不十分な英語で生徒を指導したのでは、よけい可哀想なことになりませんか?
はい、サトチョンの提案は、
英語の基礎を、まず日本語でしっかり理解することです。以下に例を示します。
some と anysome を使うか、any を使うかの問題は、よく「文型」に沿って説明されます。典型的なものの一つとして、『小学館・ランダムハウス英和辞典』の some の項。そこに「some と any」という〈注記〉があって、
一般に any は否定文、疑問文、条件節に用いるが、疑問文でも勧誘を表したり、yes の答えを予期する場合、また条件節でも肯定的期待や予測を含む場合は some が用いられる。:Do you have
some [or
any]scratch paper? (some の方は Give me
some scratch paper を含意)……
本当でしょうか。まず「一般に any は否定文、疑問文に用いる」確率が高いかどうか。Google 検索のヒット件数はこんな感じです。「ヒット件数」というのが、どういう計算の上に弾き出されてくるのかは明確ではありませんが、「どちらの言い方が自然か」、「両方とも自然」なのか、「この言い方は間違い、というのは間違いではないか」ということのチェックには充分役を果たすでしょう。
(2011年12月21日にチェックし直して数値変更) "do you have some"・・・・365,000,000
"do you have any"・・ ・・・87,000,000
"don't you have some" ・・・124,000,000
"don't you have any"・・・・827,000,000
肯定の疑問文(do you have)では some で尋ねる用例が比較的多く、否定の疑問文(don't you have)では any で尋ねる用例が比較的多いようですね。でも、do you have . . . で聞くのと、 Is there . . . で聞くのとでは、結果に有意な差ができてしまうというのも、要チェックポイントです。
"is (+are) there some"・・・・・・176,000,000
"is (+are) there any"・・・・・・1,350,000,000
"isn't(+aren't) there some" ・・・ 154,000,000
"isn't (+aren't) there any"・・・・ 322,000,000
今度は、肯定でも否定でも、any の頻度が高まりました。肯定疑問文の場合より、否定疑問文の場合の方が、some が使われやすい傾向も見てとれるようです。
実際、この8つのケースから引き出しうる妥当な仮説は、このようなものではないでしょうか。
(1) 〈some と any の出現頻度〉が、疑問文/平叙文、肯定文/否定文という文型の違い沿って分布するのではない。
(2) むしろ、〈some と any が文型の違い沿って分布する様子〉が、主語(誰に関してものを言っているか)の違いに左右される。
複雑なことを言っているようですが、そんなことはありません。some を使うか any を使うかは、〈相手を気遣う話者の気持ち〉にしたがう──ということを言っているだけです。
そんなこと、ネイティブでもなきゃ、わからないでしょう──という人がいます。いや、some や any のように無意識に出てくる言葉は、ネイティブもわからないのです。考えたことがない。こういうことは、他の国語をぶつけて苦労して学び取った人でないと、うまく表現できません。
some と any の語感を習得した日本人なら、たとえば日本語の授業で、こんな教え方をすることができます。
教師 次のなかで意味がちがうのはどれですか?──a.「君のためなら、してあげない仕事なんてない」
──b. 「君のためなら、便所掃除でも何でもしてあげる」
──c. 「何か、手伝ってあげようか」
意味が違うのは、c ですね。英語では、a や b は
I'll do any work for you. といいます。(even cleaning the toilet、なんてね)
これに対して c. は
I'll do some work for you. です。「やるといっても、何でもじゃないよ」という
抑えの気持が some にはあるんです。
any を使うと「抑えの気持ち」は吹っ飛びます。無制限。何から何までオーケー。any を使った文の練習は、けっこう授業を楽しくしますよ。
Can you eat anything? Even a worm?
Can you go anywhere? Even to the moon?
Will you do anything for me? Even . . . オットット
こうして、まず any の意味を納得させたところで、次の Google 検索の結果を、クラスで見たらいかがでしょうか。
"do you have some work to do"・・・・18,100,000
"do you have any work to do"・・・・・・1,160,000
"don't you have any work to do"・・・・・3,070,000
"don't you have some work to do" ・・・9,910,000
一番使われないのが "Do you have any . . . ?"
それはなぜかを説明するのにも、日本語の訳文が重要でしょう。暇そうにしている人に言うべき言葉は日本語でも「あんた、やることないの?」ですよね。「あんた、やることあるの?」というのは、状況によっては、ずいぶん失礼な言い方になってしまう−−それは生徒もわかってくれることでしょう。