民謡からみた世界音楽──うたの地脈を探る
Folk Song as World Musicミネルヴァ書房2012年3月刊行
この本は日本のポピュラー音楽研究の拡がりを示す画期的な業績だと思うので、
その内容を以下に詳しく紹介します。
序章 うたに脈あり…………………………………………………………………………細川周平
1 民謡、この面妖なもの
2 もうひとつのあらすじ
第I部 民謡を考える──ー概念の形成史第1章 黎明期の民謡収集・研究とヘルダ──の「民」の概念…………………………阪井葉子
1 ヘルダーの民謡論と「民」の概念
「無学で感覚的な民」──古い歌謡へのまなざし
「野生の民」──はるかな土地へのまなざし
社会的な距離からみた民
2 批判者ニコライ
3 ロマン主義化された「民」の概念──アルニム、ブレンターノとグリム兄弟
4 「民」概念の変容と第二次大戦後のヘルダー評価
第2章 インドにおける「フォーク」概念の変遷と特徴………………………………井上貴子
1 インドの言語政策と「フォーク」概念
2 サンスクリット語の音楽理論書の記述
3 英領期における「フォーク」概念の導入
4 独立後の「フォーク」概念と対応する現地語
ヒンディー語の場合 タミル語の場合
5 独立後の「フォーク」の定義と芸能の分類
6 「フォーク」概念の地域性と政治性
第3章 憂鬱の系譜…………………………………………………………………………大和田俊之
──黒人コミュニティ向けの定期刊行物にみる「ブルース」の変遷
1 憂鬱の研究史
2 憂鬱の病理学
3 憂鬱の音楽学
4 憂鬱のモダ子アイ
第4章 ローマックス父子の活動…………………………………………………………柿沼敏江
──「民謡」から「歌唱様式」へ
1 初期の民謡研究における「民謡」概念
2 カウボーイ・ソングと黒人の歌
3 ニューディール時代と『我らが歌の国』
4 歌唱様式へ
5 「オーセンティシティ」再考に向けて
第5章 柳田民謡論の可能性……………………………………………………………武田俊輔
──歌の発生とその伝承の「場」をめぐって
1 メディア論としての柳田民謡論
2 一九二〇〜三〇年代における「民謡」とメディアの位相
3 「流行眼」と「民謡」と──民謡の「新しさ」と表現の自発性
4 「民謡」生成の「場」──発生のメカニズムとオーディエンス論
5 メディアの重層性と「場」への考察
第6章 兼常清佐の民謡論を読む………………………………………………………藤田隆則
1 日本音楽研究者としての兼常滑佐
2 兼常の民謡研究
兼常の生涯 第二期 第四期 民謡研究の最終地点
博士論文の概要
3 民謡旋律のモデル化
民謡の旋律 基本の三音 基本の三音からの下行と上行
無造作かつ冗長? 基本の三音から展開するパターン
曲としての形式 第二効目類別の含意 基本の三音の射程
4 シラブル間緩急処理
立論への自己規制 言葉と歌の調和
言葉の意味がわからなくなる原因 シラブル間緩急処理
具体的観察と対照の方法
5 兼常の民謡観
言語の一種としての民謡 名もない草花としての民謡
第7章 『日本民謡大観』前夜…………………………………………………………島添貴美子
──町田嘉章の初期の民謡調査
1 町田嘉章と民謡
2 町田の民謡調査
民謡の「採集」 採集手帳にみる現地調査
3 『日本民謡集成』にみる資料の整理と分析
『集成』の目的 柳田民謡分類案の修正 名称の付け替え
面としての仕事歌の分布
第8章 統合する「民謡」、抵抗する「民謡」……………………………………林 慶花
──南北朝鮮における「民謡」概念の相違をめぐって
1 民族を結ぶ「民謡」という幻想
2 「民謡」概念の導入
3 新しい「民謡」創出をめぐる南北朝鮮の歩み
4 抵抗の記憶を蘇らせる──一九八〇年代の韓国における民衆歌謡運動
第 II 部 民謡を伝える──メディアの役割第9章 ホールでうたう………………………………………………………………長尾洋子
?大正期における演唱空間の拡大と民謡の位置
1 はじめての全国民謡大会…
2 ホールヘの視座
3 寄席から劇場ヘ──安来節
4 神田の青年会館、錦輝館、和強楽堂
追分節の東京進出
後藤桃水による「準備工作」──追分節から民謡の普及へ
5 ホールの効用
第10章 沖縄音楽レコードにおける〈媒介者〉の機能…………………………高橋美樹
──一九三〇年代・日本コロムビア制作のSP盤を対象として
1 近代沖縄音楽の録音と〈媒介者〉
2 レコード会社との媒介
沖縄音楽レコード制作の経緯 録音された沖縄音楽の主なジャンル
3 歌手・演有家との媒介
4 日本コロムビアのレコード制作
一九三〇年代〜四○年代における制作活動 レコード制作システム
5 媒介者としての喜舎場永c
6 沖縄音楽レコードの歴史的意義
第11章 かっぽれ百態………………………………………………………………竹内有一
1 「かっぽれ」への視座
2 「かっぽれ」の原拠は何か
和歌山民謡との関連性 近世の俗謡(はやり歌)との関連性
3 「かっぽれ」の完成まで
大道芸で「暢気社会を驚かせてやらう」 大道芸から大芝居へ
九代目團十郎の「かっぽれ」──歌舞伎台本からわかること
レコード吹き込み──梅坊主の十八番から伝承芸へ
4 流転する「かっぽれ」
陸軍による編曲と吹奏楽 国葬の「かっぽれ」──選曲は正しかった!?
さらなる越境へ 五線譜出版
もうひとつの「かっぽれ」──シーボルトの Boo-su-ni kappore
5 「かっぽれ」の精神──「フラメンコかっぽれ」に継承されたもの
第12章 ハワイの盆踊り歌…………………………………………………………早稲田みな子
──日系ディアスポラ文化としての民謡の形成
1 ハワイの盆踊りの歴史
2 ハワイ「福島音頭」の変容
ホノルルの「福島音頭」=「相馬盆唄」=シティー・スタイル
エヴァとマウイの「福島音頭」=プランテーション・スタイル=「福島盆踊り唄」(?)
3 ハワイ「岩国音頭」の変容
日本の「岩国音頭」のレパートリー
ハワイの「岩国音頭」のレパートリー
ハワイの「岩国音頭」に残る古い特徴
4 ホームとつながりつつ変化するディアスポラ文化
第13章 ハワイ日系人の「ホレホレ節」…………………………………………中原ゆかり
──ハリー・ウラタの取り組みと影響
1 「ホレホレ節」の復活とハリー・ウラタ
2 「ホレホレ節」との出会い
3 旋律への興味と保存への意欲
4 正調「ホレホレ節」へ
5 うたわれる「ホレホレ節」
6 「ホレホレ節」復活の意味
第14章 歌の実践にみられる「田舎」の創造……………………………………倉田量介
──キューバのプント・グァヒーロをめぐって
1 キューバの民謡
2 「農民音楽」とは
種類 楽器 演奏の目的 録音メディアおよび放送メディア
3 「農民音楽」の実践者
4 現地の民俗学者による「農民音楽」の解釈をめぐる考察
5 「農民音楽」を取り巻く今日の環境
第15章 ベネズエラ民謡「ホローポ」の創造……………………………………石橋 純
──知識人と民衆知
1 「民謡」以前──ファンダンゴヘのまなざし
2 「ベネズエラ民謡」ホローポの誕生
3 ホローポの民衆知
楽器編成 和声循環の型と即興演奏 ノリの裏表とその転換
4 「本物」のホローポ発見と大衆音楽化
大衆音楽ジャンルとしての「民謡」の成立 民謡ブームの寵児たち
都市教養層とホローポ
5 民衆文化をめぐる価値転換
新しい歌と都市弦楽 ノリの客体化
6 民衆文化と都会人
第16章 「ダニー・ボーイ」は戦争に行った……………………………………森 博史
──歌から立ちあがってくる物語
1 曲名不詳のメロディから「ロンドンデリー・エア」へ
「曲名小計」のメロディ
アイルランド系文化人と「ロンドンデリー・エア」
イギリス音楽界における「ロンドンデリー・エア」
曲の出自に対する疑問と探究
2 「ダニー・ボーイ」とその作詞者ウェザリー
「ダニー・ボーイ」という詩作品 歌詞に見られるふたつの要素
失われた第三スタンザ? バラッドの継承者
3 合衆国における「ダニー・ボーイ」
歌手のシューマン=ハインク
自由公債販促キャンペーン (Liberty Bond Campaign)
「兵士の母」(Soldier's Mother)
4 映画『ダニー・ボーイ』と戦争がつくりあげる物語
第 III 部 民謡をつくる──創作と編曲第17章 一九世紀ブダペストの「民謡」……………………………………………横井雅子
1 ”まちがって民謡とみなされていた” 歌
2 当時の ”民謡” をめぐって──一九世紀における民謡集を手がかりに
3 多様な都市住民のための娯楽と ”民謡” …
ブダペストの市民たち 新たな市民が欲した ”民謡”
4 人々が ”民謡” に求めたもの
第18章 バルトーク『子供のために』をめぐって…………………………………伊東信宏
1 『子供のために』の位置
2 『子供のために』の成立と版
3 以前の編曲との比較
4 第II巻第34番「葬送」
5 その後の民謡編曲作品
第19章 どうして沖縄ふうなんだろう………………………………………………三井 徹
──英系米民謡の旋律変形
1 沖縄的音階版「プリティ・ポリ−」の譜面
2 沖縄的音階版の間接音源…
3 一九二七年のB・F・シェルトン版
4 一九三七年のE・C・ボール版
5 シェルトン版とボール版の比較
第20章 〈民謡〉から流行歌へ………………………………………………………松村 洋
──タイのラムウォン歌を中心に
1 タイ歌謡
王都の歌・地方の歌 プレーン・タイ・サーコン
2 ラムウォンの誕生
ラムトーンからラムウォンヘ
ピブーンソンクラーム政権のワッタナタム政策 ラムウォンの近代性
3 流行歌とラムウォン
広報局洋楽団 ルークトゥン歌謡に流れ込んだラムウォン
4 近代化と伝統歌謡
第21章 ジャズ民謡の系譜……………………………………………………………細川周平
──忘れられた雑種音楽
1 いつもの、それとも新奇な組み合わせ?
2 鳥取春陽──道頓堀でジャズる
3 服部良一と門下生──スウィング編曲の完成
4 杉井幸一──ジャズもタンゴも乗り越えて
5 ジャズ民謡をめぐって
6 戦後の流れ──海外のジャズ界との接触
7 民族性と陳腐性
8 間歌的・発展的継承
9 ジャズと民謡の収斂と離散
第22章 三橋美智也とうたごえ運動…………………………………………………輪島裕介
──昭和三〇年代における「民謡」の地位
1 民謡は戦後に隆盛した?
2 三橋美智也の民謡調流行歌
民謡的歌唱法・「望郷」モチーフ・「勤労学生」イメージ
3 左派・進歩派による流行歌批判と肯定的民謡観
「俗悪文化」としての「日本調」歌謡 左派・進歩派の「民謡」概念
4 三橋三智也の民謡観
5 「民謡」の拡散
ジャズ/ポピュラーのレパートリーとしての「民謡」
三橋美智也「達者でナ」(一九六〇年)
「民謡の時代」としての昭和三〇年代
第23章 三輪眞弘「東の唄」と「ありえたかもしれない民謡」の虚実……………岡田暁生
1 三輪眞弘と「フィクション」
2 柴田理論とアルゴリズム
3 「束の唄」と「日本民謡」の換骨奪胎
4 「ありえたかもしれない」から「ある」へ